―生殺与奪―
人間を壊すことは簡単にできる。
見捨て続ければいい。
裏切り続ければいい。
人格なんて不確かなものを粉々に砕くことなんて、ガラスを砕くことのように簡単だ。
ぐしゃりと一度ひねり潰してしまえば、あとはもう、再起不能に陥るだけ。
砕け散ったガラスは、角を尖らせながら、ただの危険物に成り下がる。
特にこの魔術師は、蟻をひねり潰すよりも簡単に壊すことが出来るだろう。
黒鋼は意識を失ったファイをベッドへ連れていき、横にさせた。
はずみで顔に降り注いだ金髪を払いのけてやる。
薄くて細い金の髪。
今は片目だけになったスカイブルー。
色味がないほどの白い肌。
ファイが持っている全ての色は、自己主張がとても少ない。
少しでも他の色が混ざれば、すぐに元の色の面影はなくなるだろう。
この魔術師がギリギリの線で保っていたのはいつものことだったけれど。
最近は、そのギリギリの線を既に踏み越えてしまったのか。
崩壊まで、あと一歩。
そう、壊すことはたやすいのだ。
壊れたものを戻すことは、不可能に近い程難しいくせに。
一から物を作るには、頑丈な部品をたくさん集めなければならないから。
今まで与えていた部品は、大方振り落とされてしまった。
元に戻せなくて。
容易に壊せるのならば。
―ならばいっそ、この手でばらばらに砕いてしまおうか。
色素のない髪を指に絡めながら、不気味な考えが頭をよぎる。
そしてそれは、暗い思考が持つ独特の甘い誘惑。
魔術師を生かすも殺すも、全て自分が鍵を握っている。
人の生殺与奪権を牛耳る、この奇妙な優越感。
ファイの白くて消えてしまいそうな指がピクリと動き、体が小さく身じろいだ。
魔術師が、目を覚ます。
そこにかける言葉は。
一言は。
殺すか。
まだ生かしておくか。
どちらを、選ぶか。
―fin―
↓後記。
in sideの続き。つまり黒鋼さんもギリギリだったということです。
ちなみに、結局その後はどちらも言わず、そのまま部屋を去ると思います。そいで明日には元通り。
…黒ファイで鬼畜的なものはありえないと思ってたのに、書いてみたらすんげぇ楽しかったですどうしよう。