―in side―

心が、保つ筈がない。
ずっと解けない緊張。
張りつめ続けた心。


過去が、現在が。
遠い昔、極寒の中目の前にそびえ立つ高い壁が、兄王が、ファイが、アシュラ王が。
黒鋼の血が、写し身の小狼に与えた右目が、いつの間にか超えてしまった一線が。



―全てが、太い、頑丈な鎖となり、がんじがらめに絡みつく。



もがけばもがく程絡まるだけ。
いつものように笑える余裕は、既に使いきった。


ぎりぎりと音をたて、軋む程絡まる鎖。



逃げ場など、ない。



いつか不安定な夜、不器用に髪を撫でてくれたあの大きくてゴツゴツした優しい手に、これ以上縋りつくわけにはいかない。



死ぬことすら、許されない。



只、これからずっと、ぎりぎりと締め上げてくる鎖と、鎖が頑丈になればなるだけ心にぶち撒かれる黒い絵の具に、一人で耐えなければならない現実に。
このまま潰されてしまいそうになることが、狂いそうになるくらい怖くて。




気付けば、目の前の何かを、指が白くなるくらい握りしめて。
声になっていない音を、喉の奥から振り絞るようにして叫んでいた。



壊れて、いく。
鎖を止められるものが一つもない。
心が、砕け散って消えてしまいそうだ。


今、この手が掴んでいる物は何?
オレは今何をしているの?



頭が真っ白で何も見えない。
何も、わからない。









気がつくと、背中に大きな掌が回されていた。
ハッとして顔を上げると、そこには見慣れた忍者の姿。
眉間にはくっきりと皺が寄っていて、普段はあまり見ることが出来ない悲痛な表情。






思わず、目を見開く。
手が震え、瞳が揺れる。







よりにもよって、そんな。

一番、縋りついてはいけない人に。






目の前が、真っ暗になった。
無意識のうちに縋りついたこの両腕をもぎ取ってしまいたい衝動にかられ、体を抱くように二の腕を掴み、ぎりぎりと爪を立てる。
黒鋼はそれをあやすように、掌をファイの手の上に重ねると、そのままプツリとファイの意識が途切れ、体重が黒鋼の体にのしかかった。








―魔術師の限界が、近い。








↓後記
突然訳のわからない文章を失礼しました(…)。
インフィニティあたりの出来事だと思われます。